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DX推進という虚業を実業にしたい

DX推進という虚業を実業にしたい 組織
この記事は約8分で読めます。

世には数万円払うセミナーで華々しいDXの成功事例がたくさん紹介されている。

しかし現実は、セミナーに示された「DX成功の極意」通りにうまくいくもんじゃないことがほとんどであると感じる。

初めは「口だけの虚業」と現場から叩かれた。
非効率を分かって現場と一緒にやっていくことを決めた。
同じ部署から部分最適だ、非効率だと叩かれた。
経営陣の都合に振り回された。

これらの流れを経由したので、いちDX担当者として記録を残す。

同じDXに従事する方の参考になれば幸いです。

DX推進部は虚業屋

DX推進部は現場からしたらただのゴミ部門である。
手を動かさず口だけ動かすからである。

大抵DX推進部とやらは、社長あたりがDXの取り組みが各組織内の部分最適にとどまっているとかいって、横断的な立ち振る舞いができる役割をもった奴が必要だといってできる部であろう。

つまるところ、よく言う”横串”とやらの存在で会社の業務を改革し、会社の収益を爆増させることを狙いとして発足されるものである。

実際はどうだろう。
DX推進部なんて大層な看板を背負った輩が現場に行けば、現場の空気は一気に冷え込む。

私も例外ではなかった。

現場から見た私は「実務も知らねえ奴がお偉いさんの出した指示と数字を盾にして余計な仕事を増やしに来た」だの「口だけ達者で自分じゃ何ひとつ手を動かさない奴ら」としか見られなかった。これはガチである。

実際、初めの段階では、現場は私のニーズ伺いというプロレスに嫌々対応頂いた。
私は体裁が整ったスケジュールを整え「この通りに進めましょう」というだけだった。
やっていることは現場のフォローというケツ叩だった。

現場の本当の困りごとは耳を貸さない。
都合よく会社の収益に貢献するアイテムだけを抽出し「支援しますよ」という割には手を動かさない。
月に1回ほどヒョコっと現場に顔を出してはスケジュール進捗だけをフォローする。
次第に現場から嫌われていき、”横串”ではなく”横槍”と言われる。
しまいには門前払いをくらう。

目指すべき姿とは異なる、まさに「虚業」である。

現場と一緒に取り組む実業屋へ

ボコボコと私見を言ったわけだが、残念ながらこの私見はまだ続く。
話を続ける。

事実として、現場の非効率や属人化、データの分断といった問題は確かに存在していた。

何らかの形で変えていく必要があった。

問題は「やり方」であることは現場のことを何も知らない私でも察するに余りあるものがあった。

とにかく、行ける時は頻繁に現場に足を運ぶことを心がけた。
イメージとはしてはこの記事のような内容で、とにかくめげずに現場へ通う事にした。
参考:【奇人】会社ウラミーマンの対応にめちゃくちゃ苦労した話【すなわち奇跡の人】

時間が許す限り現場の人たちの横に座り、実際の業務の流れを見せてもらった。
すべてを理解することはできなくても、「何が一番しんどいのか」「どこに時間がかかっているのか」「何が本当に困っているのか」を、可能な限り肌で感じようとした。

それでも、あたりまえではあるが、業務の種類が多すぎて全部を見ることができない。
私は作業ができないし見てるだけが限界なので、理解のスピードだって限界があった。

もろもろ限界が見えたので、現場の声を疑わずに受け止めることにシフトした。

「それは本当か?」「もっと効率的なやり方があるはずだ」と即座に反論するのはやめた。
「そう感じているのだな」と一旦受け止めた。
その上で、自分にできる範囲で要因を調べ、仮説を立て、資料のたたき台を作った。

そのたたき台を現場にぶつけた。
ここが一番しんどかった。
たたき台を出すと、容赦なく叩かれた。

指摘はとにかく的確で、自分の理解不足を容赦なく突きつけられる。
気持ちは凹んだ。

さらに、一度現場と深く関わり始めると、今度は「都合のいい便利屋」としてこき使われることも増えた。
現場からは「支援してくれるんでしょ?じゃあこれもやって、あれも調べて」と頼まれた。

一方でDX推進側の組織からは「現場に寄りすぎだ」「もっと俯瞰した視点でやれ」「組織としての成果を出せ」と批判された。
板挟みになった。
損ばかりしているような気がする。
当初、DX推進部の発足時には「お前らは事務局のような立ち位置になるな、現場に寄り添え」とか言われていた記憶があったが、それも幻に見えてしまった。

それでも、私は「一緒にやる」というスタンスだけは崩さないようにした。

現場の人たちと「一緒に」課題を整理し、「一緒に」解決の方向性を探り、「一緒に」小さく試してみた。
資料は自分一人で完成させるのではなく、現場の人たちに何度も叩き直してもらいながら、少しずつ何かしらの形にした。ちょっとしたシステムでも治具でもなんでも作っていったのである。治具は現場の人に作ってもらったけど。

そうしているうちに、少しずつ空気が変わっていくのを感じた。
「こいつは、ただ資料を作りに来ているわけじゃないらしい」「現場のことを、ちゃんと聞いてくれようとしている」。
そうした認識が、現場のちょっとした態度の変化から、少しずつ広がっていったような気がした。

もちろん現場の全員から態度を変化してもらったわけではない。
一部の方だけである。
ただ、たった数人だけでも、取り組みは当初と比べてスピード感をもって進めることができるようになった。

何となくだが、虚業から実態が実業へと移った強い感じをもった。

推進組織からの板挟み・経営陣のスタンス

現場に寄り添えば寄り添うほど、推進組織との温度感に苦しむことになる。

現場に入り込むほど、今度は味方のはずのDX推進部から「特定の現場だけ見ても意味がない」「もっと全社展開できる施策を」と苦言を呈される。
私の立場が難しい。

そして何より頭を悩ませるのが経営陣のスタンスだ。
彼らはどこまでも数字と収益性を基準に判断する。

セミナーでよく踊る「工数改善が〇〇〇時間!」といった事例があるとしよう。
経営者にとって強烈な魅力にはならない。
参考:生産性向上と業務効率化は別なんですよという事をおさえればDXはうまくいくとは限らないが経営陣と話す前提ぐらいは押さえられると思う

残業削減を定量的に評価するのは難しい。
経営者は、単純な工数改善の提案など「で、いくら儲かるの?」とか「この取り組みは部門内で解決することでしょ?」と突き返してくる。

工数改善は業務プロセスの見直し、つまり「業務の抜本的な見直し=働き方改革」に該当すると思うのだが、経営者から見れば「企業の対外(顧客や株主やメディア)にむけた会社収益とその他のアピールにおける優先順位」で決まるものであると感じる。
そういった意味では、工数改善は市場環境や危機管理の観点から「優先順位の入れ替え」として取り組み優先順位が落ちてしまい、最も利益や防衛につながる領域へ舵を切るのは経営として当然の判断とも言える。

しかし、その「優先順位の入れ替え」が、現場の末端で働く役職もない兵隊レベルから見たら都合よい掌返しにしか見えないわけである。

いざ不祥事や重大トラブルが起きたことを考えよう。
途端、対外(顧客や株主やメディア)から見た”品質”に懐疑的な目線を浴びせられることを恐れるであろう。「なぜ手書きなんだ!」「全社で業務フローを見直せ!」と急に叫び散らかすことは想像に難くない。

そんな時、今までは組織的に「俺らが前に提案したことだろうが」という強烈な徒労感を感じた経験は、私だけではないはずだ。

私がやった取り組みを理屈で眺めてみた考察

この一連の構造を、学術的な理論の視点から冷静に整理してみる。

まず、私が取った「現場伴走」アプローチの有効性は、組織改革の手法を扱う「チェンジマネジメント理論」で説明がつく。改革において不可欠なのは、仕組みの導入以上に、影響を受ける社員の感情や心理的抵抗に寄り添う手続きだからだ。

一方で、過度な泥臭い伴走には「組織心理学」の観点から明確な懸念が存在する。正当な評価や対価がないまま、上下の板挟みの中で個人の努力に依存し続けると、担当者は心理的なエネルギーを擦り減らし、「燃え尽き症候群」を起こしてしまう。個人の犠牲に頼ったやり方は、組織として長続きしないのだ。

また、経営陣の判断基準については、株主と経営者の委任関係を説明する「エージェンシー理論」が背景にある。経営者は株主に対する説明責任を負っており、短期的な投資対効果(ROI)を追求せざるを得ない構造が存在する。トラブル発生時の急速な方針転換も、企業の社会的信用を守る防衛的な判断という側面がある。

しかし、ここに組織の大きな落とし穴がある。書籍「イノベーションのジレンマ」にあるように、目先の収益性や短期的な成果指標ばかりを基準に投資を判断していると、企業は長期的で本質的な改革を起こす力を徐々に失っていく、という内容である。
一見すると効率の悪い現場の愚直な改善を切り捨て続けることこそが、組織の発展を妨げるリスクになる、という事である。

僭越ながら経営者へ提言したい―虚業を実業に変えるために

私自身は経営などやったことがない。
だから、これから述べる内容は、まさに経営陣から見れば「現場の綺麗ごと以外何物でもない」と一蹴されるのだろう。
しかし、現場と推進組織の狭間で葛藤してきた、いち担当者として、どうしても言わせていただきたい。

目先の株主対策や一時的な数字合わせを捨ててほしい。
会社としての「本当の基本方針」を示してほしい。
世の流行りに乗らない泥臭い現場改善であっても、工数削減の取り組みも含めて「これが我が社の強みを作る基盤だ」と株主にアピールする(強気に言い換えれば敵対する)、ふてぶてしいまでの度胸を持ってほしい。

そんなことをすれば、会社を評価する外部のアナリストから「時代のニーズからズレている」と叩かれるだろうし、物言う株主がいようものなら株主総会は混迷の極みとなるだろう。
しかし、短期的に市場評価を下げるリスクがあろうとも、将来の強みを育てるために必要であると受け入れる覚悟が求められると考える。

DX推進部を”横串”として発足させたにもかかわらず、実態は「きれいな計画を作り、進捗を管理する人」となる実情を分かってほしい。その取り組みは虚業のまま終わりやすい。
現場から嫌われ、実態から乖離し、最終的には「またDXか」と冷笑されるだろう。

もちろん、全体にスケールした施策を出せれば文句はない。
しかし現実問題、会社は組織である以上、サイロ化されていることは免れない。
同じ工程を持つ拠点であっても、実際の運用や業務フローが大幅に異なることがほとんどであり、現場に入り込めば個別最適化に終始せざるを得ないのが実態だ。
もちろん参考として横展開できそうなものは、DX推進部が把握した時点でスグにでも情報を流すことが必要であるのは言うまでもない。

本当に必要なのは、現場に足を運び、叩かれながらも一緒に泥臭く進めていく姿勢だ。

そして、その姿勢を組織として許容し、むしろ推奨する文化が必要だ。
「現場に入り込みすぎだ」「個別最適だ」と批判するのではなく「現場と一緒にやって、何がわかったのか」をちゃんと聞く。
「成果が出るまで時間がかかる」ことを前提に、短期的な見えやすい成果だけを求めない。
「損をするかもしれない立場」に身を置く人間を、組織として守る。

こうした覚悟がなければ、DX推進は永遠に虚業のままだと思う。

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